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経済経営研究所の今


  平成24年度から3か年事業として文部科学省に採択された「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」についてご紹介します。

  この事業は、大学が最先端の研究や地域に根差した研究などの観点から、研究プロジェクトを計画・申請し、文部科学省が審査の上で選定を行い、当該プロジェクトを遂行するための研究拠点に対し、研究施設・設備整備費や研究費を一体的に補助する事業です。24年度は全国から170件の申請があり62件が採択されました(採択率=36.5%)。

  本学経済経営研究所が申請した研究テーマは「地域との協働による優良中小企業の経営戦略と政策課題に関する実証研究」です。地域に根差した研究を進めることにより、大学の新たな研究基盤を形成するとともに、実証研究の機会を増やすことで大学の地域貢献と若手研究者の研究領域の拡大を目指します。また、研究成果は中小企業の経営戦略と今後の政策立案に資することを目指します。研究参加者は学外研究者を含め20名の体制で実施しています。


  本事業の中核的な調査研究事業では、地域の中小企業支援機関や業界団体、マスコミ、金融機関等と連携することで 『広域京浜地域の中小企業研究(各業態編)』を作成します。24年度は製造業(実施済み)、25年度は流通業(実施中)、26年度はサービス業(検討中)をテーマとします。ここでは、24年度と25年度の事業概要についてご紹介します。


  ★(24年度=製造業編)
  ナショナルテクノポリスと称される京浜地域の産業集積における特定専門加工機能による相互の補完性により維持されてきた“ものづくり”の基盤技術がアジア化の中で歯槽膿漏的に揺らいでいます。広域京浜地域の中小製造業は、柔軟な分業の組織化を可能にする高密度な技術集積を形成してきましたが、震災、為替の乱高下、電力供給、エネルギーコスト、税制などによる将来リスクを軽減し、収益改善を図る企業の戦略行動により、事業所の海外展開や部品調達等の広域化を模索する企業が増えており、マニュファクチャリング・ミニマムの議論を丹念に検証する時期にあります。経営的視点からは、必ずしもグローバルな展開を志向する企業ばかりではなく、水平的ネットワークの参加による地域の“ものづくり”ブランディングへの貢献を意識し、市場自立型中小企業の要件とされるリレーションシップ・マーケティングを課題とする中小企業も多くあります。

  政策面ではグロ−バル化を目指す企業の増加を背景に、アジア化を国内製造業の全面的縮小と捉えるのではなく、アジアを範囲とした製造業の地域的再編として捉えて、海外で稼いだ利益を国内に還流して新規事業や研究開発を通じて雇用創出を図るべく中小企業の海外進出を積極的に支援する政策が認知されてきています。

  本事業は、地域の中小企業支援機関との協働によって時代の転換期にある広域京浜地域の中小企業を対象に取引展開の実態と戦略観を把握するため、地域に根差した研究を実証的に進めることで中小企業の類型化を試みるとともに優良中小企業がどの類型に多いのか、またそのプロフィールを探っていきます。中心となる事業はアンケート調査とヒアリング調査、および中小企業支援機関や業界団体等で構成する検討会で、京浜地域の優良中小製造業のこれまでの発展過程と現況、今後の展望と課題について、後世に残すべくオーラルヒストリーの手法も使いながら『京浜地域の中小企業研究―製造業編―』に纏めます。製造業編の報告書はすでに公開していますので、トップページよりご参照ください。


  ★(25年度=流通業編)
  流通業は大手を中心にICTを活用した効率的なシステム構築と付加価値の高いサービスを提供する新たな業態開発、デベロッパーによる立地創造の優位性追求、ネットショッピングによるリアルな競合商圏の塗り直し、需要掘り起こしのためのショッパーズ・マーケティングの深化、オムニチャネル・コマースの構築など、消費者のライフスタイルの変化に対応すべく革新的なマーケティングを展開しています。同時に、本格的な少子高齢・人口減少社会を迎え、国内消費市場の縮減とともに業態を超えた競争激化がさらに進んでいます。ただし、大型商業施設の生産性(坪効率)は一貫して低下しており、小売業界の競争は更に厳しさを増しています。

  大手流通業の競争激化は、地域商業にも甚大な影響を及ぼしています。高齢者を中心に移動手段の弱体化が進む中で、大型店の撤退を含む商店街の空き店舗や中心市街地の衰退など商業集積の構造問題は高齢化率が24%を超える今日において生活インフラに直結する主要な都市問題になっています。国は2010年にNPOや社協や公共交通機関など多様な主体との連携による商店街の買い物弱者対策事業をスタートさせました。生協も移動販売車の導入による買い物弱者対策を講じています。しかし、いずれも事業採算性、持続可能性、利用者満足という3点から民間有志の努力だけで事業を継続することは困難です。

  商店街は個店同士が依存と競争の関係性を維持することで消費者のワンストップの買い物の場として支持され、地域コミュニティの場としてその存在意義が認知されてきました。商店街が地域のプラットホーム(内在する諸資源を循環させる協働の場)として期待されるケースも多くなっています。しかし、流通構造の変化とともに商店街の内的構造改革の遅れも影響し、82年から四半世紀の間に小規模の小売店を中心に事業所数は3分の2まで減少するなど、地域商業はこの間に一貫して苦戦が続いています。今後は都市部においても徒歩圏で日常の買い物さえ不便を感じる「食の砂漠化」の進行が懸念されています。大手流通各社もシニア市場に注目し、ネット販売や配達等によるサービスを付加し業態の壁を超えた事業を展開しています。一方、商店街の衰退や大型店の撤退により、日常の買い物にも苦労する高齢者は増え、狭隘な地域商圏を基盤とする中小商業者と商店街の存在意義が問われています。また、商業集積機能として近年はライフスタイル提案型の商業施設に対する期待感が高まっており、今後の地域商業のあり方として欧米の商業まちづくり政策の潮流を視野に、中心市街地活性化対策にも貢献する日本型商業まちづくり政策のあり方を議論することも課題となっています。

  本研究では、
   々域京浜地域における80年代以降の流通構造の変化、
   地域商業の盛衰に関する史的考察(商業振興策の変遷とオーラルヒストリー研究、および先行研究のレビュー)、
   C羮優良店の戦略行動に関する調査分析(外部主体との協働によるブランディング行動を含む)、
   ぞε抗垢凌靴燭焚椎柔に関する研究(商店街活動とまちづくり活動の相違を含む)、
   ゲ掘小売の連携(リテールサポート)・ボランタリーチェーンの革新に関する研究等

  …を通じ、中小商業者の競争力(魅力)向上と自治体の商業振興政策の立案に資することを目的として実施します。 流通業編作成のための検討会は8月5日(月)に第1回を開催します。小売業2,000社と消費財卸売業1,000社を対象とするアンケート調査を実施します。また35社の企業ヒアリングを予定しています。調査協力をお願いする企業の方には本事業へのご理解とご協力をお願いいたします。

                                                                                  以上

                                                                         経済経営研究所長
                                                                         教授  四宮 正親